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長野地方裁判所 昭和61年(わ)178号 判決

本籍

長野県小県郡真田町大字傍陽一一三五八番地

住居

同県上田市大字諏訪形一四六三番地二

紡績加工業

飯島友幸

昭和八年九月一一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官吉田博視出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金一八〇〇万円に処する。

被告人が右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五一年三月頃から肩書住居地で、「シオノ産業」の名で梳毛紡績加工業を営んでいた者であるが、紡績加工業は好不況の波が激しいので、不況の際に倒産しないだけの資金を備えるため、好況で利益が出ている時に、脱税によって裏金を作ろうと決意し、売上除外及び仕入等の架空計上その他の不正行為を行なったうえ、これによって得た資金を仮名又は借名の定期預金等にして秘匿し、自分の妻や税理事務所職員に、各年度の所得が概ね一〇〇〇万円以下になるように書類を作成させ

第一  昭和五七年分の総所得額が六三八七万九二二一円で、これに対する所得税額が三二七一万六四〇〇円であるにもかかわらず、昭和五八年三月一五日、長野県上田市中央西二丁目六番二二号所在の所轄上田税務署で、同税務署長に対し、総所得金額が九九二万一二〇〇円で、これに対する所得税額が一五七万九八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和五七年分の正規の所得税額と申告税額との差額三一一三万六六〇〇円を免れ

第二  昭和五八年分の総所得金額が八四〇〇万二六二九円で、これに対する所得額が四六八六万五六〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年三月一三日、同税務署で、同税務署長に対し、総所得金額が一〇〇八万四八七六円で、これに対する所得税額が一六七万八五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和五八年分の正規の所得金額と申告税額との差額四五一八万七一〇〇円を免れ

第三  昭和五九年分の総所得金額が九〇二三万四六九七円で、これに対する所得税額が四八七一万一一〇〇円であるにもかかわらず、昭和六〇年三月一五日、同税務署で、同税務署長に対し、総所得金額が九六五万三八九七円で、これに対する所得税額が一三五万七七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和五九年分の正規の所得税額と申告税額との差額四七三五万三四〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書四通

一  被告人の答申書一二通

一  飯島好子、柳原治雄の検察官に対する各供述調書

一  飯島好子の大蔵事務官に対する質問てん末書九通

一  柳原治雄の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  柳原治雄の答申書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書三通

一  大蔵事務官作成の調査書二五通

一  上田税務署長作成の証明書、報告書(申告書写等添付)

一  電話聴取書

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、同条一項により懲役と罰金を併科することとし、情状により同条二項を適用して、ほ脱税額以下の罰金を科することとする。以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重いと認める判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一ないし第三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金一八〇〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。後記の情状を考慮して刑法二五条一項一号によりこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

被告人の本件犯行は、計画的で、金額も多く、悪質である。しかしながら、本件犯行は、個人的利益というより事業存続のためのもので、被告人はこれまで真面目に働き、今後も更に働くことが期待されるので、懲役刑ついては執行を猶予するのが相当である。次に、罰金刑について、所得税法違反事件においては懲役刑のいかんに劣らず重要であり、一般予防の観点からも、ほ脱税額等の約三割とする裁判例が多いので、検察官の求刑意見(三〇〇〇万円)は決して高いとはいえないが、被告人は本件発覚後、本税、延滞税、地方税に加えて、重加算税も完納したことによって相当の処分を受けており、更に、脱税によって得た蓄積は全部はき出し、現在では借金を抱える立場にありながら、更に借金してまでも罰金を支払うとの意向を示していることを考慮すれば、あまりに高額の罰金はかえって被告人に著るしい困難を強要し、罰金支払はもちろん事業の継続もできなくさせるおそれもあるので、右求刑をある程度減じることはやむをえない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤道雄)

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